出来ないことは出来なくていい。「ADHDでよかった」の著者、立入勝義さんに学ぶ、発達障害の乗り越え方。

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あなたのすぐそばにある「発達障害」の世界

例えば、あなたの身近な人(お子様やパートナーや友人など)が実は発達障害だったと知ったら、あなたはどう思うでしょうか。

この記事を書いている私は、高校2年生の時に発達障害だと診断され、現在は、障害者雇用で入社した会社で、自分と同じ発達障害等を抱えるお子様を支援する仕事をしています。私が発達障害と診断された時、将来に大きな不安を感じて、時には絶望したこともありました。また、私が仕事で接するお子様や、その親御様の中にも、将来に対して大きな不安を抱えられている方がたくさんおられます。

私は、そんな当事者や家族が抱える不安をどうすれば和らげることが出来るのかを考えてきたのですが、なかなか自分なりの答えを見つけられずにいました。

そんなある日、オヤノミカタの松井さんからの紹介で、アメリカで生活をしながら、世界銀行、ウォルトディズニーといったグローバル企業や、日系企業の現地子会社の事業責任者などを歴任する立入勝義さんにインタビューさせていただく機会がありました。

立入さんは、30代でADHD(注意欠如・多動性障害で発達障害の一種)と診断されたそうです。海外でビジネスマンとして活躍する傍ら、昨年、ADHDの諸症状と向き合ってきた自身体験をまとめた「ADHDでよかった」(新潮新書)という本を出版されました。また、現在は、発達障害を抱える当事者や当事者の親御様に向けた「発達障害のお悩み相談室」というオンラインサロンのオープンも控えており、自身の経験を活かして、同じ障害で様々な困難を抱えている人たちに「希望と気づき」を届けたいと語っています。

そんな立入さんに、当事者であり、支援者でもある視点から考えた発達障害の乗り越え方についてお話をうかがいました。

誰も「発達障害」について教えてくれなかった

金井塚:立入さんは、現在、海外でビジネスマンとしてご活躍されている一方で、発達障害を抱える方への支援の活動に精力的に取り組んでおられます。そういった、活動をはじめるきっかけは何だったのでしょうか。

立入:私は30代で発達障害と診断されたのですが、その時思ったのは 『なぜ、もっと早くに、発達障害について、誰かが私に教えてくれなかったのか』ということでした。もう少し早く分かっていたら、あんなに苦しまずに済んだのにと、そんな思いが原点にあります。また、診断をもらってから、同じように発達障害を抱えている人たちがまわりにたくさんいることに気が付きました。そうした発達障害で、今、苦労されている方に対して、発達障害と向き合い、工夫を重ね、ある程度克服してきた自身の体験を通して、何か伝えられることがあるのではないかと思い活動をはじめました。

金井塚:確かに同じ障害と向き合い乗り越えてきた当事者だからこそ伝えられることは多そうですね。

立入:元々、海外で生活する中で、漠然と日本社会に何か貢献できることがしたいと考えていて、日本人向けに英語教育のボランティア等をやっていました。その後、発達障害の当事者として情報を発信したり、相談に乗ったりする中で、想像以上に話を聞きたいという人が多く、この分野でも社会の役に立つことが出来るかもしれないと思うようになりました。

金井塚:なるほど。特に去年、書籍を出版された際には大きな反響があったと聞きました。

立入:そうですね。ありがたいことにたくさんの方から、感想や、相談のメッセージをいただきました。初めは、そうしたメッセージ1つ1つに返信をして相談に乗っていたのですが、ある時、このやり方に限界を感じて、発達障害で困っている方への支援の方法や関わり方を考えなおすきっかけになりました。

自立の鍵となるのは『聞く耳』を持てるかどうか

金井塚:支援の方法については、私も仕事の中で、日々、難しさを痛感しているのですが、立入さんはどの様にお考えでしょうか。

立入:私は、まずは本人が『聞く耳』を持つ状態をつくることが一番大切だと思います。私自身、診断を受けて発達障害について理解するまで、なかなか『聞く耳』を持つことが出来ませんでした。この状態で、周囲の人が何かアドバイスをしたり、相談に乗ったりしても結局、本人の問題が解決することには繋がりません。また、まわりの人達は良かれと思って声をかけているのに、当の本人が聞く耳を持っていないと、まわりの人達も次第に離れて行ってしまうという悪循環が生まれてしまいます。

金井塚:『聞く耳』というのは面白い視点ですね。発達障害を抱えている場合、コミュニケーションや想像力にも困難を抱えている人が多いので、本人は聞いているつもりでも同じ失敗を繰り返してしまうということも多いのではないかと思います。『聞く耳』を持つとは、自分が抱えている困難と向き合って、解決する方法を考えるために他人の意見を受け入れる状態をつくるということでしょうか。

立入:そうですね。社会で自立して生きていくためには、仕事でも恋愛でも、他人からの評価が付きまとってきます。発達障害を抱えている人の場合、自分の思う評価と他人から見た評価が乖離することが多いのですが、そこをすり合わせていく必要があります。自分の思う評価とズレのある他者からの評価を受け入れる状態をつくることが、まず支援をはじめる上で一番大切だと思っています。

オンラインサロン「発達障害のお悩み相談室」誕生の背景

金井塚:立入さんは当事者やそのご家族の方への支援の活動の中で、「発達障害のお悩み相談室(http://bit.ly/oyano304)」というオンラインサロンを立ち上げたと伺いました。発達障害のある人への支援のサービスの中でも今までになかった斬新な方法だと思ったのですが、オンラインサロンの立ち上げに至った経緯を教えてください。

立入:先ほどの話にも繋がるのですが、初めはメールやSNS等でいただいた相談にすべて返信していたのですが、それでは身が持たないし、ある時、無料で相談に乗ることは、本人が課題を解決することに繋がらならず、どちらにとってもよくないということに気づきました。そこで、もう少し、人数を限定して、自らの意志でお金を払ってでも現状を何とかしたいと思っている人と、コーチングをベースにしたじっくり向き合う支援を実施できる方法はないかと考えている時にオンラインサロンの話をもらい、やってみようと思いました。

金井塚:なるほど。立入さんのオンラインサロンでは、ある程度目的意識を持った人達にコーチングのメソッドを活用した支援を実施していくということでしょうか。

立入:そうですね。私は『希望と気づき』ということをテーマにこの活動をしているのですが、オンラインサロンに参加していただいた方には「これまで自分の視点では気づけなかったこと」について、私とのやりとりや参加者同士のやりとりの中で、気づきを得られる環境を提供していきたいと思っています。

発達障害を乗り越えて、より良く生きるために

金井塚:個人的な話になるのですが、私も発達障害の当事者かつ支援者として活動している中で、最近よく、大人になってから発達障害と診断されたという知り合いから相談される機会が増えました。相手が成人であれば一般的には、まず、心療内科への通院やカウンセリングの利用を勧めるのですが、それだけでは本人が抱えている、仕事や人間関係等の困難の根本的な解決にはならないのではないかと思うこともありました。

立入:もちろん、まずは医者や心理士等の専門家を頼るべきだと思うのですが、それはあくまで最低限の生活の土台をつくるための行動で、『よりよく生きる』ということを目指すためには、その上で、自分の課題と向き合って現実的な解決策を考えて実行していくことが必要だと思っています。当事者の方々の相談に乗っていると、仕事でミスが多い、家事が出来ない等といったそれぞれの個別具体的な悩みを抱えていることが多いのですが、そうした悩みに対して実践的なアドバイスを受けられる場所は多くはありません。

金井塚:なるほど時には、専門家の本質的な話よりも、当事者の具体的な話の方が胸に刺さったという経験は私にもあります。発達障害は、人によって抱えている特性や困難は本当に様々だと思うので、専門家の話を元に大枠を理解した上で、当事者の人達の経験談の中から、自分に近い特性の人の話、自分に相性が良さそうな人の話を考聞いて実践していくというのが、現実的な発達障害との向き合い方だと思いました。

立入:そうですね。当事者の方の話を聞いていると、何か出来ないことがあると、自分を責めて余計に落ち込んでしまうという悩みをよく耳にします。ただ、私は、苦手なことに関して、何で出来ないのだろうと落ち込んでいても仕方がないんで、他の手段を見つけることが大切だと思っています。出来ないことは出来ないで別にいいじゃないかと。私は未だに方向音痴で、アメリカは駐車場が広くてどこに車を止めたか分からなくなるということがしょっちゅうあります。でも、もう方向音痴を克服しようとは思っていなくて、今はiphoneやgoogle map等いろんな道具があるので、方向音痴でも迷わない方法を考えることに注力しています。発達障害による困難があって、その根本は解決できなくても、社会で折り合いをつけるために何か別の方法が見つけられたら、それはその困難を乗り越えたことになると思っています。

金井塚:立入さんの本を読んで「発達障害を乗り越える」という言葉を見た時に、初めはどこか、出来ないことを出来るようにするというイメージを持っていました。
しかし、今回、お話をうかがって、そうではなくて、『聞く耳』を持って自分の障害と向き合い、より良く生きるために工夫を重ねて生きていくことが「発達障害を乗り越えていく」ということなのかなと思いました。

編集後記―『自分らしく生きる』ということ。

「発達障害は目に見えない障害だ」といわれることがあります。

抱えている特性や困難は様々で、一言で説明することは難しく、理解するまでには時間がかかります。理解することが難しいからこそ当事者やその家族の不安も大きくなります。
私も、発達障害だと診断されてから、それを受け入れて、人生に希望を持って生きられるようになるまでには随分と時間がかかりました。

しかし、自分の障害をある程度受け入れて開示出来る様になってから、自分と同じ発達障害を抱えながら生きている人が、想像以上にたくさんいることを知りました。
みんなそれぞれ課題を抱えながらも、自分らしい人生を歩んでいました。

私は、そんな当事者の人たちと出会い、話を聞くたびに、いつも、小さな希望が湧き、少しの生きる勇気を貰えた気持ちになります。
この記事が読者の人達にとってそんな役割をすこしでも果たせたら幸いです。

●立入勝義/矢萩邦彦 – 発達障害お悩み相談室 – DMM オンラインサロン
http://bit.ly/oyano304

☆Web対談|立入勝義 × 松井知敬「インクルーシブな社会って?」における対談の様子