オヤノミカタの事業づくりの裏側、公開します。―大谷大学でのゲスト講義にて
2017.05.31

オヤノミカタ代表の松井です。
5/16(火)、大谷大学の赤澤准教授の授業にゲスト講師として登壇させていただきました。
今回、「ソーシャルビジネス論」にお呼びいただいたのですが、正直なところ、最近のオヤノミカタの活動において、「ソーシャルビジネス」という言葉はほとんど使っていません。
「オヤノミカタ=親の味方となる会社」であって、それ以上でも、それ以下でもない。そんなスタンスでいます。
なので、今回、どのような話をすべきか悩んだのですが、結論として、「ソーシャル」という領域は特に意識せず、あくまで「事業づくり」というテーマで話をすることに。
学生さん相手に話をするのはかなり久しぶりだったので、若干、緊張しながら、講義がスタート。
それでは、当日の様子をどうぞ。
オヤノミカタの事業領域は3つ。
オヤノミカタの松井と申します。早速、始めていきたいと思います。
まず、オヤノミカタの事業説明から。オヤノミカタの事業領域は3つあります。
1つ目は、EC事業。オヤノミカタストアというWeb上のセレクトショップを運営しています。親の味方となる商品を目利きして届けるサービスです。
2つ目は、イベント事業。オヤノミカタマルシェ、オヤノミカタ交流会、オヤノミカタバルなど、親の味方となるリアルなイベントを開催しています。
3つ目は、サポート事業。親の味方となる事業者さんを個別にサポートしています。対象が団体さんの場合はプロボノとして、企業さんの場合は有償でのサポートとなります。
会社を立ち上げて2年半、これら3つの事業をどのようにつくってきたのか、お話ししたいと思います。
現代の親たちは、孤立しがちな状況に置かれている。
まず、親たちの現状を知ってもらいたいと思います。
次のグラフは、主婦の方へのアンケートです。約半数の方が育児ノイローゼだと感じたことがある、7割以上の方がこどもを強く叱りすぎて後悔したと答えています。
なぜ、こういったストレス過多な状況に陥りがちなのか?
子育ては、「幸せ」と「大変さ」がいっぺんにやってくるようなもので、こどもと暮らす「幸せ」と同時に、自分の思い通りにならない「大変さ」ともうまく付き合っていかなければなりません。
このとき、「大変さ」が「幸せ」を上回ってしまうと、「子育て=しんどい」となってしまいます。
子育てに限ったことではないと思いますが、「大変だなー」と感じたときにそれを理解し、受け止めてくれる人が周りにいてくれれば、また、困ったときに相談したり頼ったりできる人が近くにいてくれれば、人はそこまで疲弊しなくて済みます。
でも、現代はその環境がつくりにくい。
その背景には、核家族化や地域コミュニティの希薄化などがあります。現代の親たちは、孤立しがちな状況に置かれていると言えます。
この状況を改善するには、親の身近に「親の味方」が必要であり、オヤノミカタはその存在になることを目指しています。
フリーランサーだから見えた子育ての現状。
そもそも、なぜ、わたしが子育て領域での起業を志したのか?
わたしは、社会人2年目でフリーランサーになりました。第一子、第二子が生まれた時も、フリーランサーとして自宅で仕事をしていたので、子育てが生活の中に自然とありました。
そのときは妻が専業主婦だったので、子育てに関して自分はあくまで「サブ」的な立ち位置。妻が子育てに疲弊し、ストレスをためている姿を見て、「これは何か課題がある」と感じていました。
その後、広告代理店に勤めることとなり、今度はワーカホリックを絵に描いたような生活を送ることになります。
明け方、自宅に戻り、こどもの寝顔を見て、シャワーを浴び、仮眠を取ってまた出社、といった生活です。当時の自分にとって、それは苦痛ではなく、むしろ、仕事に打ち込める環境が嬉しくて、自らそうしていたような感じでした。
その後、自ら事業を立ち上げたいと思い、その会社を退職します。
これまで培ってきたマーケティングスキルを、かねてから関心のあった「子育ての課題」を解決する事業づくりに活かせないか? そんな思いからでした。
ひとりの親として、味方がいて欲しいと心から願った。
ただ、会社をやめてから実際に起業するまで、1年ちょっと空いています。その間、何をしていたのかというと、主夫をしていました。
その頃は妻も働いていましたし、会社をつくる上で子育て「メイン」としての経験が必要だろうと考え、主夫になるという選択をしました。
ここで初めて、妻をはじめ、多くのママさんたちが経験してきたであろう苦労やストレスを自分ごととして知ることとなります。
それは、「何よりも仕事が優先」という価値観で生きてきたわたしにとって、人生観がガラッと変わるような経験でした。
大げさに聞こえるかもしれませんが、これまでの人生を通して築き上げてきた信念を、一度、打ち壊して、再構築するような苦しい時期。
そんな葛藤を続ける中、ひとりの親として、味方がいて欲しいと心から願うようになります。それが、オヤノミカタという社名の由来となっています。
サービス開発より先にファンをつくろう。
ここからは、会社をつくってからの話。
オヤノミカタを立ち上げて、はじめに着手したのが、ブログの執筆でした。
子育てを大変にしている要因は何なのか。親たちの深層心理や、その裏側にある社会背景を考察していくという内容です。
「ワーカホリックな会社員生活」と「子育て中心の主夫生活」という、子育ての両端の経験をベースに、記事を書いていきました。
なぜ、ブログを書き始めたのかというと、ファンをつくりたかったからです。
普通、会社を立ち上げたら真っ先に、サービス開発や商材開発に取り掛かると思います。そして、ユーザー獲得をしていく。これが一般的な形。
わたしの場合、これを逆にしようと考えました。つまり、ユーザー獲得をサービス開発よりも先行させようと。
先にサービス開発をおこなう一般的な形だと、そのサービスがユーザーに受け入れられなかった場合、次のサービス開発後に、再度、ユーザー獲得が必要になります。
それがダメだった場合はまた次というように、サービス開発ごとにユーザー獲得をしていかなければなりません。
しかし、ファンがついてくれていれば、最初のプランAがダメでも、プランB、プランCと、提案を続けていくことができます。いわば、ユーザーと一緒にサービス開発をするような形です。
世の中に新しいものを提供することを目指すベンチャー企業などは特に、上手くいかなかったときにどういう手を打つかを常に考えておく必要があり、先にファンを獲得する形のほうが適しているのではないかと思います。
まずは、1メーカー、1アイテムからスタート。トップページもない状態。
起業から丸1年は、収益のことは考えず、ファン獲得とファンとの対話に注力しました。
ブログを書き始めて半年で、のべ7500名のSNSフォロワーが集まり、その方々との意見交換の中から、親の味方となる商品を目利きして届けるというオヤノミカタストアの構想が生まれます。
ネットで検索すれば、今やあらゆる子育て情報が瞬時に並びます。便利になった反面、本当に自分に必要な情報はどれなのか、また正しい情報なのかどうかを、親自身が見極めなければならなくなりました。
選択と決断の責任が親たちの肩にのしかかっているような状態。
商品に関しても例外ではありません。オヤノミカタが、親に成り代わり商品を集めてくることで、「共に子育てを担う」状況をつくることができるのではないかと考え、サービス構築に取り掛かります。
サービスのコンセプトを具現化するため、単に商品を並べるのではなく、記事型ECというWebメディアに近い形を採用。第三者の視点から、その商品がどのように親の味方となってくれるのかを伝えることにしました。
とはいえ、資金も人手も圧倒的に少ないうちのようなベンチャー企業が、イチからサービスをつくっていくには、それなりのやり方が必要です。
それが、スモールステップで小さく回すという形。
まずは、1メーカー、1品目という形でオヤノミカタストアをオープンしました。
オープンと言っても、商品を紹介するページがひとつあるだけの状態。システムもレンタルカートを使い、トップページもありません。
それでも、オープン初日に、バババッと商品が売れ、「これならいける」という確信を得ることができました。そこから、第二メーカー、第三メーカーの獲得に動き、商品の拡充を進めていきました。
このように小さく回すことができれば、リスクも軽減できますし、仮説検証がスピーディーに進められます。また、柔軟な軌道修正が可能です。
オヤノミカタの事業づくりは、基本的にこの方針を貫いています。
事業者さん向け説明会を開催。そこで気づいたこと。
オヤノミカタストアの商品拡充とともに、販売チャネルを拡げる動きも始めました。
そのひとつが、BtoB事業への展開。
基本的に、EC事業というのは、エンドユーザー向けのBtoC事業ですが、事業者向けのBtoB事業にも展開できないかと考えました。やはり、BtoCとBtoBを同時に走らせるほうが、経営は安定します。
そこで考えたのは、共同購入という形。
実は、ブログ発信を続けている間に、一般の親御さんだけではなく、子育て関連の事業者さんからも、いろいろとメッセージをいただいていました。
ベビーマッサージ教室、保育園、幼稚園、NPO、社団法人、などなど。
皆さん、すでに親御さんのネットワークをお持ちなので、オヤノミカタストアの共同購入窓口になってもらえないかと打診したところ、「興味はあるが、本当にお勧めできるものかどうか、確信が欲しい」という返答が。
そこで、事業者さんを対象とした説明会を開催することに。
その会には十数名の方が集まってくださったんですが、結論から言うと、共同購入のアイデアは実現しませんでした。実現するには、いろいろとハードルがあり、それらを乗り越えることができませんでした。
ただ、説明会を開いてみて、気づいたことがあります。
会が終わった後、事業者さんたちが残って、ちょっとした交流会のようになっていたのです。ひょっとすると、そういったニーズがあるのかもしれない、そんなことを感じました。
親の味方となる事業者さんが一堂に会する場をつくってみてはどうだろう?
その後も、いろんな可能性を探るべく、子育て関連の事業者さんに会いに行き、情報交換を続けていました。
そのうちに、「この人とこの人がつながれば面白いことができるんじゃないか」と思うことが多くなってきました。そして、意外に、事業者間同士の横のつながりが薄いということも分かってきました。
最初のうちは、そういった方々を個別におつなぎしていたのですが、「一堂に会する場をつくってみてはどうだろう?」と考えるようになります。
たまたま、「場所を使ってもいいよ」と言ってくださる事業者さんがいらしたので、オヤノミカタ交流会Vol.0という形で、試験的に開催したところ、37名の方が集まってくださいました。
イベント後、参加者ひとりずつに感想をお聞きしたところ、「これは事業化できる」という手応えを感じ、イベント事業を本格化。その後、Vol.1、Vol.2と回を重ねていっています。
こうして、当初のアイデアとは違う形で、BtoB事業が回り始めました。
オヤノミカタ交流会は、現在、コンスタントに50名の参加が見込めるようになり、トークセッションを交えたり、関西圏以外での開催を企画したり、いろいろ試しながら、事業の幅を拡げていっています。
また、オヤノミカタ交流会以外にも、オヤノミカタマルシェやオヤノミカタバルなど、いろいろなイベントを開催しています。
小さな種をたくさん蒔く。芽が出たら育てる。
これは、わたしの事業づくりの基本スタンスのひとつ。オヤノミカタマルシェやオヤノミカタバルも、今後、大きく育てていこうとしている事業のひとつです。
親の味方となる活動をしている人はいても、その方々をサポートする仕組みがない。
いろんな親の味方となる活動をしている事業者さんと交流を深めるにつれ、こういった事業者さんをサポートしていくことの重要性を感じるようになります。
事業者の皆さんはきまって、資金、人手、広報といった課題を抱えていました。
親の味方となる活動をしている人はいても、その方々をサポートする仕組みがないため、活動の継続や発展が難しいという現状が、徐々に見えてきました。
であれば、オヤノミカタがそのサポートの役割を担っていこう。
オヤノミカタ1社でできることには限りがありますが、親の味方となる多くの活動をサポートすることで、より多くの親たちの味方となることができる、そう考えました。
その取り組みのひとつとして、現在、オヤノミカタレポートというWebメディアを運営しています。
親の味方となる活動をしている事業者さんを、プロのライターさんに取材してもらい、レポート記事をあげていっています。
オヤノミカタの第3の事業であるサポート事業は、こういった一連の活動の先に生まれた。
正直、オヤノミカタレポートは、立ち上げるべきかどうか迷いました。
なぜかと言うと、このサイトは収益を生まないからです。
ただ、このサイトを立ち上げたことで、「親の味方となる」というオヤノミカタの存在意義が強まったと感じています。
たとえ収益化できなくても、理念に合致することならば実践していく。
そこまで徹底しているからこそ、周りの人たちが「オヤノミカタ=親の味方となる会社」と認識してくれるのだと。
ブランドとは、自分で築くものではなく、周りの人たちによって築かれるものです。
実際、子育て関連の事業者さんから、「商品の販売戦略を考えてもらえないか」、「ブランディングをお願いできないか」、「ユーザー獲得を一緒に進めてもらえないか」、こういった依頼を受けるようになりました。
冒頭にお伝えした、オヤノミカタの第3の事業であるサポート事業は、こういった一連の活動の先に生まれたものだということです。
理念を言葉にするだけでなく、行動に移し、証明していくこと。その大切さを実感しています。
オヤノミカタの事業づくり(まとめ)
オヤノミカタの事業づくりのことを一通り話してきましたが、わたしなりの考えをまとめると、
■ サービス開発よりユーザー獲得を先行させる。
■ スモールステップで小さく回す。
■ BtoCとBtoBを同時に走らせる。
■ 小さな種をたくさん蒔く。芽が出たら育てる。
■ ときには収益化しない事業も必要。
これが、オヤノミカタの事業づくりのエッセンスです。
参考にしてもらえれば嬉しいです。
まだ他にも必要な要素はあるのですが、それは、また、次の機会に。
以上が、講義の概要です。
その後、質疑応答の時間があったのですが、こんな質問がありました。
「事業をおこすとき、怖くはなかったんですか?」
それに対し、こう答えました。
「怖くはなかったです。それよりも、やらずに後悔することのほうが怖かった。」
でも、ちょっと考えてから、こう付け加えました。
「今は怖くないんですが、学生時代の自分は、レールから外れることがめちゃくちゃ怖かったです。いい大学に入っていい会社に入る、それが正しいことだと思っていました。でも、心のどこかで、そういう生き方はしたくないとも思っていた。当時、わたしには実現したい夢がありました。その夢をいろんな人に話してみたんですが、否定的な意見しか返ってこなかった。でも、ただひとり、わたしの夢を肯定してくれる人がいたんです。君のやろうとしていることが、世の中にとって意味のあることであれば、君はそれをやるべきだ、と。そのとき、呪縛から解き放たれた気がしました。そして、夢を追いかけていいんだと思えるようになった。そして、今のわたしがいます。今度は、わたしが皆さんの背中を押す番だと思っています。自分らしく生きたい、夢を追いかけたい、そういう人がいたら、ぜひ、力になりたいと思います。」
ひとりでも多くの若い人たちに、夢を追いかけてもいいんだよと伝えられるよう、これからもこういった活動を続けていければと思っています。
最後に、お声がけくださった赤澤さん、本当にありがとうございました。